短命に終わったスナップシューター「X70」を購入。XF10が出た今、改めて分かるその魅力

2018.09.09 カメラ ライター:__agar

2016年発売と少し古い機種ではあるのですが、富士フイルムの高級コンデジ「X70」を最近購入しました。当時から気になってはいたのですが、なかなか手に入れることができなかったこの機種。しばらく使ってみた感想や、“レビュー”の枠からは少し外れるかもしれないこの機種に関する話などを書き残しておきたいと思います。

「X70」とは?


「X70」は、富士フイルムが2016年2月に発売した単焦点のコンパクトデジタルカメラ。

フジの高級コンデジといえば、雰囲気の良いデザインと性能でプロからファッション寄りのユーザーまで幅広く虜にする名機「X100」シリーズの存在がやはり大きいかと思いますが、X70は同じAPS-C機ながらもうひと回り小さなボディに、少し広角寄りの換算28mm相当のレンズを組み込んだ機種です。

よりコンパクトなボディにこのセンサーサイズと焦点距離、リコーの「GR」シリーズのようなスナップシューターとして作られたカメラと言えるでしょう。もちろん、センサーは富士フイルム独自の「X-Trans CMOS II」。上位機種と同様に、「PROVIA」「Velvia」「ASTIA」などの同社のフィルムの色を再現するカラーシミュレーション機能も利用できます。

スペックだけを見れば「目指すは打倒GRか?」と思ってしまうような内容ではあるのですが、無論そういった需要もあっただろうとは思うものの、実際には「Xシリーズのミラーレスと同じ“フジの色”で撮れて同等の操作性を持つコンパクトカメラ」ということに惚れ込んだ同社ユーザーのサブ機としてこそ歓迎されたのではないでしょうか。

残念なことに、この機種は発売から1年も経たないうちに生産終了。真の理由は分かりませんが、先述の「X-Trans CMOS II」を搭載する最後の機種であったことがかなり影響しているのではないかと思います。同時期には次世代の「X-Trans CMOS III」搭載機の第1弾として「X-Pro2」が発売されていますし、センサーの供給面で元から長くは続けられない機種であったことは想像に難くありません。

今買うなら「XF10」ではダメなのか?


ここまで読んで、最新のカメラ情報をよく追っている方なら「最近出たXF10じゃダメなのか?センサーサイズも焦点距離も本体サイズもよく似ているだろ?」と思われたかもしれません。しかし、数値的には似ている面もありますしおそらく光学系は流用されているはずですが、X70とXF10の目指したところはまったくと言っていいほど異なると思います。

というのも、XF10は性能、機能、操作体系などのあらゆる部分を見るに、作り手の意識としてはエントリー機のはずです。「APS-Cの単焦点コンデジ」という時点で普通のメーカーならまずエントリー機としては存在しないカテゴリーだとは思うので、おそらくそこに認識の齟齬があるのかなと……(普通に考えればエントリー機としてはちょっと尖りすぎですよね)。

数値だけを見れば、確かにXF10も約5万円の機種には見えないような高級コンデジ顔負けのスペックです。しかし、フジユーザーの目線での「ミラーレスのサブ機として同じ感覚で使えるスナップシューター」ではないと感じましたし、メーカーもそこを目指してはいないと思います。

では、どこがそう感じるのか?デザインの格好良さだとか、チルト液晶だとか、求める物は人それぞれだとは思いますが、個人的に譲れなかったのは「色」と「操作性」。そもそもこの2点に惚れてメイン機をXマウントに移行したほどなので、やはり重視するのはそこだという結論に至りました。

X-Trans CMOSを搭載していることはそれ自体も譲れない点ですが、肝であるフィルムシミュレーションの魅力を万全な状態で引き出せるのはX-Transでこそ、という意味でも外せません。

操作性について言えば、現行のXシリーズでは一部の下位機種を除いてモードダイヤルはありません。これはシャッタースピード、絞り、ISO感度の露出を決める3要素にいつでもすぐにアクセスできるダイヤルがあれば、そもそもモードダイヤルは不要という考え方だからです。例えば絞り優先モードにしたいなら絞り以外の2要素を「A」にあわせればよく、他も同様です。

右も左も分からない入門者がとっつきやすい操作かと問われれば微妙なところですが(フジ自身もそう考えているからこそ、エントリー機は普通にモードダイヤルなのでしょう)、ある程度基本が分かっていればとても直感的な操作方法だと思っています。そして、一見よく似たボディのX70とXF10ですが、X70の上部にはシャッタースピードダイヤル、XF10にはモードダイヤルが付いています。


話が長くなってしまいましたが、数字だけを見れば似ている部分はあるけれど、完全にコンセプトもターゲットも違う機種だよという話です。

X70が「Xシリーズユーザーが常に同じ世界観を持ち歩けるサブ機」あるいは「通好みのスナップシューター」だとすれば、XF10は「スマホ写真からステップアップしたいけど、高くて大きい一眼レフやミラーレスはちょっと……」といったあたりに真のターゲットがありそうで、もう少しカジュアル寄りのカメラなのだと思います。決して新機種を貶める意図はなく、あくまで自分が求める物がどちらかということを考えた結果、あえて今X70を手にしました。

外観

さて、X70の外観をチェックしてみましょう。


カラーバリエーションはシルバーとブラックの2色で、今回購入した個体はブラック。ツートンカラーのシルバーと比べるとかなりシンプルなデザインです。レンズ部分にはかぶせ式のレンズキャップが装着されており、ここはX100シリーズと同じ。前玉もそう大きくないので、スナップシューターとしては開閉式のレンズバリアの方が良かったのかな、という気はしないでもありません。


背面には操作ボタンが多数並んでいて、タッチパネルとフォーカスレバーだけで完結しているXF10とはだいぶ違いのある部分です。X70もタッチ操作には対応していて、他機種と同様、もし邪魔だと感じる場合は無効にもできます。


液晶画面は上下に可動します。やはり、ファインダーのない機種では晴天時の見やすさなどを考えると固定式ではつらい場面がありますし、アングルの自由度も増します。やはりあると助かる機能の1つでしょう。


上部にはシャッタースピードダイヤルと露出補正ダイヤルなどが並びます。Xシリーズユーザーとしては「そうそう、これこれ!」と言いたくなる、コンデジとしてはちょっと珍しい配置。

一方でモードダイヤルがない分、あまりカメラに詳しくない誰かにカメラを渡して記念撮影をしてもらう……というような場面では困ることもあるかもしれません。しかし、X70にはオートレバーがあります。このレバーを切り替えると一発でオートモードに切り替えられるので意外と役立つ場面も。ミラーレスではX-T20やX-E3などにある機能ですね。


高級コンデジの代表格、RX100シリーズの「RX100M5A」と並べるとこれくらいの大きさ。GR/GR IIには負けるものの、なかなかコンパクトな方ではないでしょうか。


ボディだけなら少し大きいコンデジ程度、というのは意外とエントリークラスのミラーレスなどではあるものです。しかし、ここは薄さに注目。やはり一体設計できる分、レンズの厚みが相当に抑えられるのでその効果は大きいです。

短い鏡筒の周りに絞りリングともう1つのコントロールリング(初期状態ではデジタルテレコンの操作)が付いているので、やや窮屈な操作に感じる部分も。ただ、絞りリングには指を引っ掛けられるような突起があるので、慣れてくればさほど気にならないかと思います。

アクセサリー

ファッションでカメラを持ち歩くわけではないにせよ、毎日持ち歩くなら多少なりとも見た目も気になるもの。そこまで凝った物は揃えていないのですが、X70と一緒に使っているアクセサリーをいくつかご紹介します。


まずは液晶保護。今回はフィルムではなくガラスを選択しました。他機種と共通のもので、ワンコインで買える良い物があります。


次にレンズの保護。X70の場合、直接フィルターを取り付けることはできないので、アダプターリングを間に入れて取り付けます。

当然その分だけ厚みが増してしまうのが悩みどころですが、レンズ自体の傷や汚れはそもそも前玉がとても小さいのでさほど心配していないものの、フォーカスを合わせる際に前後に動く部分があるので、レンズプロテクター+アダプターリングで覆うことでホコリの混入を防ぎたいという意図で装着しています。

ちなみにX70用のアダプターリングは単体販売がなく、純正フードとのセットになりますが、少々高め。実はこのアダプターリングの取り付け方法はX100シリーズと同じなので、X100シリーズ用のアダプターリング単品「AR-X100」を流用すると手頃な値段で済みます。


このほか、シューキャップやハンドストラップ、レンズキャップなどは色々なカメラを買う中でなぜか余ってしまった在庫品を見繕いました。アダプターリングを取り付けると標準のかぶせ式レンズキャップは使えないのですが、Xシリーズのレンズにはおそらくフィルター径49mmのレンズが存在しません(サポートページ)。そんなわけで、本当は富士フイルム印のキャップを着けたいのですがそもそもサイズの合う物が無く……。


最後にこちら。ブラック1色でフラットな表面加工のボディがやや殺風景に思えたので、Aki-Asahiさんの貼り革キットを購入して貼ってみました。カラーは「ネイビーブルーシュリンク」を選択。なかなか雰囲気があって良いですし、サイズもぴったりできれいに仕上がります。

Fujifilm X70用貼り革キット | Aki-Asahi Custom Camera Coverings

作例

話が長くなりすぎて作例など見る前にタブを閉じられていそうな予感がしますが、やはりどんな写真が撮れるのかをお見せしなくては始まりません。

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私は普段、富士フイルムのフラッグシップモデル「X-H1」をメインのカメラとして使っています。同じ独自センサーのX-Trans CMOSですが、世代としては1つ後の「X-Trans CMOS III」を搭載している機種です。

X70を使い始めて感じたのは、画作りの方向性はよく似ていて、やはりフジの色。現行機種と併用するなら、むしろ「いつも通り」に見えすぎてしまうことに注意した方が良いかもしれません。

特にライブビューの映像を見ている時にはつい現行機と同じ感覚になってしまうのですが、そこは1世代前のセンサー。X-Trans CMOS IIIほどのダイナミックレンジの広さや高感度耐性はさすがにないので、感覚が掴めるまでの数日は、「撮った時はいつも通りに見えたけど、帰ってチェックしたら大失敗」というような結果に……。

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現行機種だと単純に「どういう表現をしたいか」だけでフィルムシミュレーションを気軽に選べますが、X-Trans CMOS IIを同じ感覚で使ってしまうと、特にVelviaは危険。空が真っ白に飛んだ写真や影が真っ黒に潰れた写真を連発することになります。いつもよりもう少し、状況も考えて無理なく選んであげる必要があります。ただ、それは本来なら当たり前のことで、驚異的な性能のカメラにどっぷり浸かってしまうよりは、たまにはこういう体験をした方が正常なバランス感覚を保てるかもしれません。「X-Trans CMOS IIIはすごいや」と改めて感じました。

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一旦慣れてしまえば、毎日気軽に持ち歩ける小さなカメラでありながらハンデを感じることもなく、あまり性能頼みの無茶さえしなければいつも通りに近いパフォーマンスが出せるので、今の目で見ても楽しく撮れるカメラです。

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また、なかなかシャープな写りをするレンズでもあります。上の作例は絞っていますが、X100系のレンズと比べると開放でも癖のない印象です。あちらはそこがまた魅力なのですが、万人受けする、あるいはシーンを選ばず使えるのはX70のレンズかもしれません。

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デジタルテレコンは、換算35mm/50mm相当の2段階を用意。28mm、35mm、50mmという馴染み深い3つの画角を選んで使える仕様というわけです。超解像処理を行っているとのことで、デジタルテレコンを使ってもそこそこ気にならない仕上がりは得られます。

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現行機種と比べると……とは言うものの、X-Trans CMOS IIもAPS-Cのセンサーとしてはそこそこ高感度でも頑張れる部類だと思います。F2.8と特別明るいわけではないレンズですが、シーンによっては夜景も十分遊べるでしょう。

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以前はあまりモノクロでは撮らなかったのですが、富士フイルムのカメラを使うようになってからその存在を意識するようになり、「ACROS」のフィルムシミュレーションを時折使っています。残念ながらX70を含むX-Trans CMOS IIの機種にはACROSは無く、特定のフィルムの名を冠さないただの「モノクロ」モードのみ。何枚か撮ってみましたがいかがでしょうか。及ばない部分はあれど、雰囲気はあるように思います。

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画質面では粒ぞろいのXマウントの単焦点レンズ、しかし“寄れない”レンズが結構多いのが弱点で、テーブルフォトでのレンズ選びは迷うところです。その点、レンズ固定式で設計上有利なX100シリーズやX70は「普段の感覚からするとすごく寄れる!」というのも密かなメリット。X70の最短撮影距離はなんと約10cm。毎日持ち歩けるカメラとしては、こういった場面に強いのはとても助かります。

まとめ


実際に遅ればせながら購入して使ってみて、「X70」はごく普通のコンデジらしいサイズのボディにしっかりとXシリーズらしい性能が詰まった、よく撮れる楽しいカメラでした。生産終了にならないうちに買っていれば……と少し後悔しています。

性能面での限界や操作のレスポンスなど、現行機種に触れてしまっているからこそ気になることもそれなりにあるのですが、このカメラに感じる数少ない不満の大半が「1世代(2世代)古いから」という理由で片付くことなので、X-Trans CMOS IIIあるいはX-Trans CMOS IVを積んだ(XF系ではない)本当の後継機が現れる日が楽しみで仕方ありません。

もっとも、先述の「最後のX-Trans CMOS II搭載機」ということに起因するセンサー供給の問題はあったにせよ、その後、後継機が発売されなかったところからするとあまり需要がなかったのでしょうか。一方で、中古市場では未だに当時の新品価格よりも高値で取引されている機種でもあり、コアなファンはいそう。やはりX100シリーズの影に隠れてしまった部分はあるのでしょうが、このまま消えてしまうのは惜しい機種です。